「士郎、お邪魔してるわよ?」
「お?遠坂いたのか?」
「ちょっと用事が出来てね?」
「凛。お茶を入れました。」
「悪いわね、セイバー。」
「ええ、士郎ほど美味しく淹れることは出来ませんが。」
「ん、美味しいわよ。士郎はお茶を淹れるのが桁外れに上手いだけ、
セイバーはそんなこと気にしなくったって良いんだから。」
「そう、ですか。」
「おい、遠坂。それじゃ俺ってお茶汲み係ってだけかよ?」
「料理だって美味しいわよ?」
「そうじゃなくって」
「いえ、シロウのご飯はとても美味しいです!」
「だよね〜♪思わず家に帰りたくなくなっちゃうw」
「ちゃんと帰れよ!全く…。」
「あら、士郎?私がそんなに邪魔かしら…?」
「う…。」
「セイバーとの生活を邪魔しに来る私は、鬼姑って訳?」
そんなこと言ってる時点で鬼姑っぽいぞ?
「そ、そんなことはないって」
「私が居なきゃ、セイバーは此処に居られないってのに…」
「悪かったって、遠坂。」
こほん
「じゃ、出来ればずっと一緒に居て欲しい」
「な、何言ってるのよ!」
「凛、顔が真っ赤ですよ?」
「うるさいわね!分かってるわよ!全くこの私に不意打ちを食らわせるなんて、
いい度胸してるじゃない、士郎」
「シロウ、その様に凛を挑発するのはやめたほうがいい」
「セイバー、お前の方こそそんなこと言ってると後が怖いぞ…」
「そうねぇ、それじゃぁ」
「な、何だ?遠坂…?」
「師匠として命令するわ?士郎、貴方一生私の雑用ね?」
「はぁ!?」
「一生私の弟子。」
「一生かよ!?」
「そう。そして一緒に時計塔に来てもらうから、よろしく。」
「時計塔って…本気か?遠坂!?」
「協会がどうしても来いって。私は魔力がセイバーに持ってかれてるし、どっちでも良かったんで相談
しようと思ったけど、気が変わったわ?貴方には私の弟子として付いてきてもらうから。」
「そんな無茶苦茶な…第一、そんな金家には無いぞ…?人一倍食べるのを二人も抱えてるって言うのに…」
「私はそんなに食べてませんよ?シロウ…?」
「怖いぞ?セイバー…その物騒な物を仕舞ってくれ…」
「なに、貴方一人くらい、何とかなるわよ?こっちは優遇されて時計塔に行くんだから。」
「へ?」
「何、間抜けな顔をしてるのよ?一人前の魔術師として招待されてるんだから、
弟子の一人位連れて行けるのよ?」
「そうなのか!それは良かった…でもセイバーはどうするんだ?」
「あら、セイバーは英霊よ?自分の実態くらい霊体にできるでしょう?」
「…あの、凛…?とても言い難いのですが、私は霊体になることが出来ません。」
「え”?」
「説明し辛いのですが、私の真の名をご存知でしょう?」
「アーサー王。アルトリアでしょ?…あ!」
「ん?どういうことだ?遠坂、説明してくれ」
「セイバー、貴方死んでないわね…?」
「はい。」
「は!?ちょっとまて、死ななきゃ英霊には成れないんじゃなかったのか?」
「例外があるのです、多分その例外が私以外にはありえないのでしょうが…」
「いえ、セイバー…例外は他にもあると思えるわ?英雄は死んで英雄になるとは限らないもの。
世間では、死ねない英雄だって居るのよ?神様にに愛されれば愛されるだけ、ね?
神様ってのがこの世に存在するかどうかはさておき、物語、史実的に。
輪廻の輪から外されたり、死が確認されない英雄だってざらにいるわよ?」
「どういうことだ?」
「私たちが歴史、伝承と言う物を聞かされるとき、それは記録じゃなくて記憶の場合が多いわけ。
つまり、記録として『死んだ』としてもそれは後世に語り継がれるわけではない。どこぞの英雄の
老後の話って聞いたことある?」
「む。確かに。」
「そう、自分達が得ている情報はどこそこの戦いで無敗を誇ったとか、ドラゴンを倒したとか。
後日談はあるけれど、それは死ぬまでじゃない。死ぬと言う情報は当たり前すぎて消滅するの。
其処を上手く解釈すると英雄ってのは『死んでいない』ことになるのよ。
神話とかではそういうのは少ないんだけど。神様の生涯ってのはロマンスだからね?」
「そうなると…じゃ、もし、オーディンがサーヴァントとして現界すると、霊体になれない
とか?確かオーディンは今も生きていて『神々に黄昏』に備えてるって言われてるじゃないか?」
「そうね?でも相手は神様だから姿を消すことくらい簡単じゃないかしら?まぁ、
実際見たこと無いからなんとも言えないけど。」
「となるとセイバーは?」
「彼女は竜との混血とか言われているけど、何処まで本当なのかは分からないけど、
単位で言うなら『人間』なのよ?」
「凛。私は確かに存在している。」
「あ、ごめんなさい。気を悪くした?…まぁ簡単に言えば、書物によればアーサー王は最期に
アヴァロンに辿り着いて、今も戦いの傷を癒しているの。」
「書物ではそうかも知れないが、実際私は其処まで到達していない。其処に行くための聖杯戦争
でしたから。私の望みはまだ叶えられていない。だから聖杯という物に興味を示し、あの戦いに
参戦しました。ですから、正確には死んでいないのです。」
「そうか、セイバーも大変だったんだな…?でも、じゃ、どうしてこの世界に現存しているんだ?」
「それは…。」
「どうした?顔が真っ赤だぞ、セイバー?」
「士郎!全くあんたは鈍いんだから…」
「?」
「その…士郎の…ご飯が…美味しいから、です」
(そういうかわし方か。まぁ私が居るから気を使っているのね?)
「そうか!俺もそう言われると嬉しい、かな?」
「コホン、つまりセイバーは『人間として死んでない』ってわけ。『人間』は死なないと
霊体にはなれないでしょ?基本的に。」
「そうなのか」
「そうです。凛には悪いのですが。」
「ん〜無条件で一人までならいいって言ってたんだけど…まぁ二人無理なら仕方が無いし、
考えてもらうわ?まあセイバーならドーバー海峡くらい走って渡れそうだけど」
「凛、冗談はやめてください。第一不可能を可能にするには貴方の魔力を、
かなり消耗することになるのですよ?」
「そのために、士郎を連れて行くんじゃない?」
「凛、それは…。」
「ん?どうした?セイバー?」
「ふふふ?」
「遠坂も、なんだよその含み笑いは?」
「まぁ、任せなさいよ。定員二人くらい何とかなるって。」
「そうか?」
「いざとなれば屋敷を引き払えばいいし。正直あの屋敷は勿体無いけどね?
引き払うって言っても、管轄を協会に譲渡する形になっちゃうけど。
日本に稀な霊地の霊脈だからね?それだけの価値が有るし。」
「それならこの屋敷を引き払ったらいいじゃないか?」
「ダメね、この屋敷は。勿体無い。こんなに良い結界はそうそう無いわよ?居て心地良い結界は。
家を引き払うより勿体無いわ?此処に人が集まる理由、なんとなく分かるもの。それに比べて
家の結界はダメね…人を遠ざけることしか想定していない。あんな冷たい場所よりこっちのほうが
断然好きだもの。」
「遠坂。」
「正直、土地を自分が管轄している事に何も誇りは無いわ?代々受け継がれているとはいえ、
歴史は此処に刻まれているもの。私の感覚としては在れば在るに越したことは無いって程度。
お父様には申し訳ないけど。土地を持っているからといって師父に辿り着けると言ったらそうじゃない。
研究の礎としては、かなり良い糧になるんじゃないかしら?」
「難しいんだな、魔術って。」
「今頃気付いたの?なら貴方は本当の馬鹿ね?」
「今、実感しただけだよ?遠坂はそんなこと言ってるけど、本当は手放したくないんだろ?
あそこには遠坂の記憶がいっぱいあるものな?でも、魔術を実現させる為には必要な物を
捨てる必要もあるって事。大丈夫って言うのなら大丈夫だろう?他でもない遠坂が言うの
だからな?多分、この屋敷も遠坂の家も引き払わなくったて大丈夫だろうなって思うよ。」
「あ、ありがと。」
「?」
「なんでもないわよ!」
「時計塔か。セイバーも行って見たいだろ?イギリス。」
「そうですね。祖国がどうなっているかは興味が有ります。あそこには私が生涯賭けた物が
多すぎますから。ただ、城に入れるかどうかは謎ですが。」
「城?ん〜まぁ難しいんじゃないかな?なぁ遠坂?」
「あら?セイバーが言ってる城はイギリス王家のそれじゃないわよ?」
「へ?」
「キャメロット。魔法使いマーリンがアーサー王に送ったお城。ん〜お城と言うよりは
結界に近いわね。士郎、貴方が持っている固有結界あれと同じような物よ?」
「固有結界?」
「まぁ、貴方の其れとは違って門戸は広かったらしいけど。」
「凛、知っているのですか?」
「一般常識的には、ね?」
「一般常識なのか…?」
「貴方がいなくなってから門は閉ざされているから、どうなのかは知らないけど。
貴方が帰る分には問題ないんじゃないかしら?但し、他の魔術師ないし魔法使いが見つけて
封印してたり、個人的に使っていたら話は別でしょうけど?」
「それはないでしょう、凛。ご老体は今でも元気でやってそうだ。あれでも魔法使いなのだから」
「そうね、記述によれば半人半妖でしたっけ?あなたの先生は。」
「じゃ問題はないんじゃないか。」
「そうね。貴方の部下…もとい同胞も幾等かは生きてるかもよ?セイバー?」
「そうですね。でも、其処にいくのはやめておきましょう。昔の嫌な事も思い出しそうですから。」
「そうね?あ、ていうか貴方此処に喚起されたとき言語圏が欧米じゃなくて
日本語に設定されてるんだった。イングリッシュ、貴方わかる?」
「な!?この言葉は共通の物だと思っていました…。違うのですか?」
「そりゃねぇ…セイバー、貴方は多分英霊、サーヴァントとしてしか現界したことないでしょう?
アーサー王を祭った物って聞いたことないわよ?ちゃんとした祭りがが有ればそこに乗じて
降臨できるんだけど。」
「あることは有るんですが、何分このように現界できるのはサーヴァントとしてですからね?
そうか、この国と私の国は公用語が違うのですね…。」
「遠坂、俺も英語はからっきしダメだぞ?」
「情けない…全くあんたはそれでも学徒なわけ?英語は何点?」
「そりゃ、学校一の秀才に言われたくないよ…ああどうせ当たり障りのない点数しか取ったこと
ないよ、俺は。」
「平均以上は取ってる?」
「そうだな、一成に教えてもらってるしな。平均以上だよ?」
「柳洞くんに?…ふふふ、分かったわ?なら私が教えてあげる。勉強も。」
「へ?」
「生半端な物じゃないわよ?まぁ、見返りとして学年2位位にはなれるけど…。」
「ええ”?」
「あ、セイバーには倫理、ん〜そこまでしなくていいか。社会程度も教えてあげるわ?
英語と。」
「助かります、凛。」
「士郎?だから柳洞くんに教えてもらわなくてもいいから。これからは私のところに来なさい?
手取り足取り、教えてあげるから。」
「ちょっと、遠坂、それは…」
「師匠に、文句言えるわけ、貴方…?」
「無いです…すいません。努力します。」
「分かれば、よろしい。」

「そっか此処から飛び立たなきゃいけないか。」
感慨深く空を見上げる。
「停滞は生きてる以上意味の無いことだわ?わかるでしょう?貴方は何をしてどう生きたいか…。」
そうだな、と頷く。
俺はあいつの言葉をそっくりそのまま否定した。
言葉は実行されなければ意味が無い。
「まぁ、士郎は士郎なんだし。平気よ?私がついてるんだから。」
「そうだな。お前と居れば、嫌でも不幸にはなりそうもない。」
遠坂も頷く。
「もし、不幸なのなら、お前と出会ったときから不幸は始まっているんだろうしな?」
「ちょっと、それってどういう意味よ!?」
「なんでもないって、幸福と不幸の境は曖昧だなって事。」
なによ、っとゆう顔をしてそっぽを向く。
俺は笑って
「今の俺の不幸は、彼女が口うるさいってことかな?」
遠坂の顔は見る見る朱に染まった。

END